こんにちは、ママ税理士のゆかりです🌸(ゆめつばさ会計)。
パートさんに働いてもらっている、あるいはこれから雇おうとしている経営者の方から、こんな声をよく聞きます。
「106万円の壁って聞くけど、うちは従業員が51人もいないから関係ないですよね?」
——実はこれ、今はまだ正解ですが、2027年10月からじわじわ正解ではなくなっていきます。「関係ない」と思っていたルールが、数年のうちに自社の話になる。今日はそのスケジュールと、経営者として今からできる準備をお伝えします。
そもそも:社会保険の強制加入は「所定労働時間」で決まります
まず大前提として、社会保険(厚生年金・健康保険)に強制加入になるかどうかは、独身か既婚かとは一切関係ありません。基準になるのは「所定労働時間」です。
1週間の所定労働時間、かつ1か月の所定労働日数の両方が、その会社の正社員(通常の労働者)の4分の3以上あれば——いわゆる「4分の3基準」を満たせば——年収がいくらであっても社会保険は強制加入になります。正社員の多くがこれに該当しますが、契約社員やフルタイムに近いパートさんでも当てはまることがあります。
ただし、所定労働時間が4分の3未満でも、年収などの条件で加入になることがあります——これが「106万円の壁」
4分の3基準に満たない、いわゆる「パート・アルバイト」の方は、これまで社会保険の対象外でした。ですが2016年以降、次の5条件をすべて満たす方は、短時間労働者として社会保険に加入する制度ができています。これが「106万円の壁」と呼ばれる基準です。
- 月収8.8万円以上(年収換算で約106万円)
- 週の所定労働時間20時間以上
- 2か月を超える雇用見込み
- 学生でない
- 勤務先の従業員数(社会保険の被保険者数)が51人以上
このうち最後の「企業規模要件」があるおかげで、従業員51人未満の会社は、パートさんの年収がいくらでも社会保険の加入義務が発生しませんでした。中小企業の多くが「106万円の壁は大企業・チェーン店の話」と感じてきたのは、この要件があったからです。
※5条件を満たさない方(企業規模要件を満たさない会社に勤めるパートさんなど)は勤務先の社会保険には入りませんが、無保険になるわけではありません。誰の扶養にも入っていなければ自分名義で国民健康保険・国民年金に加入し、親の健康保険の扶養に入っている場合は多くの健保組合で配偶者と同様の年収基準(130万円未満等)が使われます。
何が変わるのか:2つの改正が同時に進む
2025年6月に成立した年金制度改正法により、この「106万円の壁」の中身が変わります。
①賃金要件(月8.8万円=年106万円)が2026年10月に撤廃予定
「106万円」という金額の基準そのものがなくなり、あとは労働時間・雇用見込み等の要件で判定されるようになります。
②企業規模要件が2027年10月から段階的に縮小し、2035年10月に完全撤廃
| 時期 | 対象となる企業規模 |
|---|---|
| 〜2027年9月(現行) | 従業員51人以上 |
| 2027年10月〜 | 従業員36人以上 |
| 2029年10月〜 | 従業員21人以上 |
| 2032年10月〜 | 従業員11人以上 |
| 2035年10月〜 | すべての企業が対象(要件撤廃) |
つまり、「51人未満だから関係ない」という前提そのものが、この10年で少しずつ崩れていきます。従業員10〜30人規模の会社であれば、2027年10月の第一段階(36人以上)はまだ対象外でも、2029年・2032年と基準が下がるたびに射程に入ってくる可能性があります。「うちはまだ先」ではなく「いつ自社の番が来るか」で見ておく必要があるということです。
※制度の詳細(施行日・要件の具体的な数字)は今後の政省令等で確定していく部分もあります。続報が出た際はこの記事も更新予定です。
経営者として、今から準備しておきたいこと
対象になってから慌てないために、早めに動いておきたいポイントを3つに整理しました。
①保険料負担の増加を試算しておく
パートさんが社会保険に加入すると、会社側も保険料の半分(労使折半)を負担することになります。現在雇っているパートさんの人数・収入から、「もし今対象になったら」の負担増をざっくり試算しておくと、いざというときに慌てません。
②パートさんの「就業調整」への対応を考えておく
これまで「扶養の範囲で働きたい」という理由で労働時間をセーブしていた方が、基準の変化で急に対象・対象外が入れ替わることがあります。パートさんご本人にとっても関心の高いテーマなので、採用面談や既存スタッフとの面談で「うちはこう考えている」と説明できるようにしておくと、不安や離職のリスクを減らせます。
③採用計画・人員規模を見直すタイミングで一緒に検討する
これから増員を検討している場合、「あと何人でどの基準に達するか」を意識しておくと、採用のタイミングや雇用形態(パート継続か、社会保険加入前提の雇用に切り替えるか)の判断材料になります。
よくある混同:「130万円の壁」とは何が違うの?
パートさんの社会保険というと「130万円の壁」を思い浮かべる方も多いと思います。この2つ、実は主語が違います。
- 130万円の壁……働く本人が「配偶者の扶養に入れるか」を決める、すべての人に共通する基準
- 106万円の壁……勤務先の会社が「自社の社会保険に加入させる義務があるか」を決める、5条件を満たす人だけの限定ルール(月8.8万円以上・週20時間以上・雇用見込み2か月超・学生でない・企業規模要件)
つまり106万円の壁は、「130万円の壁より先に発動することがある、早期加入トリガー」というイメージです。
例えば、大企業(従業員51人以上)にお勤めで、週20時間以上働くパートさんが年収120万円だったとします。120万円は130万円未満なので「まだ扶養でいられる」と思いがちですが、106万円の壁の5条件をすべて満たしていれば、130万円を待たずにこの時点で自社の社会保険に加入する義務が発生し、扶養から外れます。
逆に、同じ年収120万円でも、週20時間未満のパートさんなど5条件のどれかを満たさない場合は106万円の壁は関係なく、130万円未満なので扶養のままです。
「年収がいくらか」だけでなく「5条件を満たすかどうか」で結果が変わる——ここが130万円の壁との一番の違いであり、経営者として押さえておきたいポイントです。今回の改正で企業規模要件が下がっていくと、この「早期加入トリガー」が働く従業員の範囲がどんどん広がっていきます。
まとめ
- 「106万円の壁」は、そもそも所定労働時間の「4分の3基準」を満たさない方に向けた、年収等の条件で加入が決まる仕組み
- 賃金要件は2026年10月撤廃、企業規模要件は2027年10月から段階的に縮小し2035年10月に完全撤廃。51人未満の中小企業も、いずれ確実に対象になる
- 130万円の壁(本人の扶養可否)とは主語が違い、106万円の壁は5条件を満たす人だけに先に発動する「早期加入トリガー」
- 「今は対象外」で終わらせず、保険料負担の試算・パートさんへの説明・採用計画への織り込みを早めに始めるのがおすすめ
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